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研究概要

 近赤外光(NIR:波長700 nm)を照射することでがん治療を実現するがん光免疫療法(NIR-Photoimmunotherapy:NIR-PIT)が、手術、放射線、抗がん剤、がん免疫薬に続く画期的な「第5の新規がん治療法」として非常に注目を集めている。現在、NIR-PITは、再発Ⅳ期頭頸部(とうけいぶ)がんへのEGFRを標的とした治療として、国際PhaseⅢ臨床試験(治験)(NCT03769506: LUZERA-301試験)が既に開始されている。2018年12月には、米国においてアメリカ食品医薬品局(FDA)から優先認可件であるFast Track指定を受けている。日本においては独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から先駆け申請指定を受け、通常はPhaseⅢ臨床試験結果が必要だが、その結果を待たずに世界に先駆けて楽天メディカルが、2020年9月25日に厚生労働省から従来の治療法が効かない頭頚部がんを対象に、製造販売の承認を得たと発表している。このように、NIR-PITは安全で且つ治療効果の高い革新的がん治療法として、その臨床応用に大きな期待が集まっている。ただし、NIT-PITのがん特異的抗体薬剤(抗体-IR700)であるフタロシアニンシリカ錯体結合抗体薬剤は、生体内薬物動態、患部への集積効率、最適投与量などに未解明な部分が多く、また、生体深部にあるがん(肺がん・膵臓がんなど)に対する治療方法についても確立されていないなど、学術的及び技術的にも課題がある。

 そこで本講座では、量子ナノ光学に基づく優れた光学特性(超高精細、超高感度、超耐光性)を有する量子センサである量子ドット(QDs)や蛍光ナノダイヤモンド(FNDs)をNIR-PITに融合した量子ナノがん光免疫療法(QPIT:キューピット)を構築する。具体的には、1粒子のQ量子センサに複数分子の抗体-IR700を結合した量子ナノ抗体薬剤を開発し、抗体-IR700の高感度な可視化を実現することで、現状の課題を解決する。また、抗体-IR700の薬剤濃縮と活性化による難治性がん細胞の死滅効果向上に加え、ナノ粒子化による難治性がん組織へのEPR効果も実現することで、NIR-PITの更なる発展・進展に貢献する。